今回はハサミの話しです。
我ら職人はハサミを使うんです。
材料の幅落としや貼り込みの時の粗切りに使います。
粗切りをカッターでする人もいますが、エアコン周り、火災報知器周り、白い枠周りなんかでそれをやると刃物傷をつけてしまいます。
その時はなんともなくとも年数が経つとすごく目立ってくるんです。
何回も貼り替えをする賃貸物件の貼り替えにいくと、この刃物傷がひどいです。
なので、もし頼んだ職人さんの腰袋にハサミが入っていなかったら…、
帰ってもらいましょう(^.^;
で…、
我らが使うのは「裁ちバサミ(ラシャ鋏)」といって洋裁用の少し大きめのハサミなんですが、我らは“水物”(糊のついた材料)を扱うので、
“錆びない”ということが重要なわけです。
“錆びない”といえばステンレスなんですが、そのステンレス鋏の最高級ブランドが「増太郎鋏」なんです。
江戸時代には関東に幕府がありましたから、お侍さんが沢山いて刀鍛冶も沢山いたんですね。で、明治維新の廃刀令でその鍛冶屋さんたちがハサミを作りだしたんです。きっと洋装も流行りだしてテーラーさんも増えて需要があったんでしょうね。
その関東のハサミのブランドが「東鋏」といいます。
皆さんのおうちにある裁ちバサミにこの刻印があったら、それは江戸鍛冶の高級品です(^^)
その東鋏の中でも最高峰ブランドが「増太郎鋏」という、岩田増太郎さんが作ったハサミです。
岩田増太郎
昭和10年、小学4年生の頃から鋏を作り始めて70年。
1981年 東京都知事特別表彰
1989年 東京都伝統工芸士に認定
1992年 黄綬褒章を受章
1995年 葛飾区伝統工芸士に認定
こんな凄い人!
この増太郎さんがいち早く錆びにくい素材のSLD鋼(ステンレス鋼)というのを取り入れて作った裁ちバサミなんです。
錆びにくいんでキッチンバサミなんかも有名ですね。
でも何年か前に増太郎さんが交通事故に遭われて大怪我をして…、
もう作れないんです(;_;)
そして皮肉なことにいいハサミすぎて一丁あれば沢山は売れない(;_;)
良いものが売れない時代らしいです…。
そんな事情で今は息子さんが修理とか研ぎ調整だけやってくれてます。
で…、
ヒロさんも一丁持ってるんですが、良いハサミなんで友達にも勧めてたんです。
その友達が増太郎バサミを腰袋から落として刃先を欠いてしまったんですね。
で、泣きながら息子さんに電話したところ短くなっちゃうけど直せるとのことで、葛飾区の金町まで行ってきたんです。
その時息子さんが「倉庫探したら半端が出てきて2丁くらい作れそうなんだけどいる?」
欲しい!
で、その友達はいらないそうなんで予約したところ…、
来ました(^^)
左が今まで使っていた増太郎さんです。
美しい…(^^)
大きさは265mmと250mm。
で、小さい方は愛弟子の秋元くんに譲ることにしました。
いい道具を使うと仕事のモチベーションも上がります。
そして仕事終いにはキレイに洗って糊をおとして556をシュッとすることで職人としての襟を正す儀式をします。
というわけで、相模原でクロスの貼替えの際は「増太郎」をこよなく愛する泉内装でお願いします。